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――「親のせい」にしないために知っておきたいこと
子どもの発達について考えるとき、
「家庭での関わり方がよくなかったのでしょうか」
「私の育て方のせいでしょうか」
と、ご自身を責めてしまう保護者の方がいらっしゃいます。
けれども、子どもの発達は、ひとつの原因だけで決まるものではありません。
生まれ持った特性、遺伝的な要因、妊娠中からの環境、身体の状態、睡眠、家庭や学校での経験、社会的な支援など、さまざまな要素が重なりながら形づくられていきます。
家庭環境について知ることは、誰かを責めるためではありません。
今、その親子にどのような支えがあれば、少し過ごしやすくなるのかを考えるための視点なのだと思います。
家庭環境は「ひとつの要素」ではありません
2020年に発表されたレビュー論文では、家庭環境と子どもの神経発達との関係について、主に次の領域が整理されています。
- 家庭の経済的・社会的な状況
- 家族構成や住環境
- 親子の関わり方
- 保護者の心身の健康
- 妊娠中や出生後の物質への曝露
ここで大切なのは、これらを一つずつ切り離して考えないことです。
経済的な負担が大きい家庭では、住環境や教育資源、保護者のストレス、親子で過ごせる時間など、複数の要因が同時に重なることがあります。
反対に、困難があったとしても、信頼できる大人との関係、地域とのつながり、安心して過ごせる居場所などが、子どもを守る力になることもあります。
親子の関係は、一方向ではありません
この論文で特に大切だと感じたのは、親子の関係を双方向に捉えている点です。
以前は、
「親の関わり方が、子どもの行動をつくる」
という一方向の見方が中心でした。
しかし実際には、子どもの気質や行動もまた、保護者の心や関わり方に影響します。
たとえば、衝動性が強く、何度声をかけても行動が止まりにくい子を毎日育てていると、保護者は少しずつ疲れていきます。
最初は穏やかに伝えていたのに、同じことが何度も続くうちに、声が強くなってしまうこともあります。
それは、保護者の愛情が足りないからではありません。
子どもの特性が保護者の疲労を強め、疲れた保護者の関わりが、さらに子どもの不安定さにつながる。
そのような循環が起こることがあります。
論文の3ページに示された図でも、家庭環境と子どもの発達は、発達段階、個人差、各要素の相互作用、そして双方向性を含む複雑な関係として描かれています。

「温かく関わる」だけでは解決できないこともあります
研究では、保護者の温かさや応答性、つまり子どものサインに気づき、受け止め、必要な支えを返す関わりは、学習面や行動面、愛着の形成と関連することが示されています。
また、すぐに答えを教えるのではなく、子どもが自分で考えられるように少しだけ手を添える関わりも、実行機能や学習の発達と関係するとされています。
ただし、これを、
「いつも優しく接しなければならない」
「親が上手に関われば、すべて解決する」
という意味に受け取る必要はありません。
子どもの特性によって、必要な関わり方は異なります。
同じ声かけでも、安心につながる子もいれば、言葉が多すぎることで、かえって混乱する子もいます。
温かさとは、たくさん説明することだけではありません。
少し待つこと。
何も言わず、そばにいること。
疲れている日は、予定を減らすこと。
その子の状態に合わせて、関わり方を調整することも、温かさのひとつなのだと思います。
保護者の心の健康も、子どもの環境の一部です
妊娠中や出産後の保護者のストレス、抑うつ、不安などが、子どもの発達や心身の健康と関連することも報告されています。
ただし、ここでも「母親のストレスが子どもの発達障害を引き起こす」と単純に考えることはできません。
遺伝的な要因や、妊娠中から出生後まで続く環境、親子双方の特性などが複雑に関係しています。
また、関連が認められても、それだけで原因と結果が証明されたことにはなりません。
この論文でも、従来の研究には横断研究や後方視的な報告が多く、因果関係を明確にするには、長期間にわたる前向き研究が必要だと述べられています。
大切なのは、
「お母さんがつらいと、子どもに悪影響がある」
と責めることではなく、
「保護者の心身を支えることは、子どもの育ちを支えることにもつながる」
と捉えることではないでしょうか。
家庭だけで、すべてを抱えなくてよい
子どもの発達を支えるものは、家庭の中だけにあるわけではありません。
保育園や学校の先生、祖父母、医療者、療育のスタッフ、地域の人たち。
ゆっくり話を聞いてくれる人や、少しの間子どもを見守ってくれる人がいるだけで、家庭の緊張が和らぐことがあります。
保護者に余裕が戻ると、子どもの様子を、少し違う角度から見られるようになることもあります。
子どもの行動だけを変えようとするのではなく、親子を取り巻く環境全体を整える。
この視点は、子育て支援の中でとても大切だと感じています。
家庭環境は、運命ではありません
家庭環境が子どもの発達と関連することは、多くの研究で示されています。
しかし、それは家庭環境によって子どもの未来が決まるという意味ではありません。
発達には、環境の影響を受けやすい時期があります。一方で、子どもの脳や心には、経験によって変化していく柔軟性もあります。
そして、同じ環境の中にいても、影響の受け方は一人ひとり異なります。
困難があるからこそ育つ力もあり、出会う人や支援によって、その後の歩みが変わることもあります。
家庭環境について考えるとき、社会として大切にしたいのは、
「何が悪かったのか」を探すことではなく、
「今から、どこを少し楽にできるだろう」と親子と一緒に考えることです。
その親子を取り巻く人たちが、少しずつ支え合いながら、育ちを見守っていくものなのかもしれません。
参考文献
Bush NR, Wakschlag LS, LeWinn KZ, et al. Family Environment, Neurodevelopmental Risk, and the Environmental Influences on Child Health Outcomes(ECHO)Initiative: Looking Back and Moving Forward. Front Psychiatry. 2020;11:547. doi:10.3389/fpsyt.2020.00547. fileciteturn0file0
※本論文は、家庭環境と神経発達に関する既存研究を整理したレビュー論文です。多くの知見は関連性を示すものであり、個々の家庭環境が子どもの症状の直接的な原因であることを証明するものではありません。