第43回和漢医薬学会学術大会が終わりました。
今回は、神経発達症に対する漢方治療について、シンポジウムでお話しする機会をいただきました。
このような貴重な機会をいただけたことに、多くの先生方のご参加に心から感謝しています。
お世話になった先生方も来てくださり、お顔を拝見してとても安心しました。ありがとうございました。

私自身、神経発達症に対する漢方治療には、大きな可能性があると感じています。
特に幼児期のお子さんでは、西洋医学的な薬物療法の選択肢がまだ限られています。
たとえば、神経発達症に伴う入眠困難に用いられるメラトベルや、注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)に用いられるコンサータも、6歳未満では有効性・安全性が確立されていません。
そのため幼児期では、生活リズムを整えることや環境調整、親御さんへの支援などが非常に大切になります。
もちろん、それらは治療の土台です。
一方で、実際の診療では、
夜なかなか眠れない。
毎日のように癇癪が続く。
興奮が強く、親子ともに疲れてしまう。
食事や排泄など、日常生活そのものに困っている。
そんなご家族にもたくさん出会います。
毎日の暮らしは、単に症状が起こる場所ではありません。
その積み重ねの中で、子どもは育ち、親子の関係も少しずつ作られていきます。
だからこそ、日々の困りごとに対して「もう少しできることがないだろうか」と考えたとき、漢方治療がひとつの選択肢になることがあります。
ただ、私は、
「神経発達症だから漢方薬を出す」
「困った行動を漢方薬で抑え込む」
ということではないと思っています。
目の前にいる子どもが、少し眠れるようになる。
少し食べられるようになる。
少し穏やかに過ごせる時間が増える。
その先に、その子が本来持っている力を発揮し、育っていける場所をつくる。
私にとっての神経発達症の漢方治療は、症状を「抑え込む」ための治療というよりも、
「その子が育つための場所を整える治療」
なのだと思っています。
質疑応答から教えていただいたこと
今回のシンポジウムでは、質疑応答でもたくさんのご質問をいただきました。
質問してくださった先生方にも、本当に感謝しています。
一緒にその場を作っていただいたような、とてもありがたい時間でした。
そして今回、自分自身の講演や質疑応答を通して、もう一つ大きな学びがありました。
それは、
「聞くことを、もっと磨きたい」
ということです。
私は、質疑応答が決して得意ではありません。
その場で質問を受け、瞬時に考えて答えることに難しさを感じることがあります。
なるべくたくさんのことを持ち帰っていただきたいと思うほど、つい情報をたくさんお渡ししたくなります。
でも、情報が多すぎれば、かえって「結局何が大切だったのだろう」となってしまうこともあります。
だからまず必要なのは、
自分が何を話すかを考えることよりも、
「この方は、何を知りたいのだろう」
と、相手の言葉をきちんと聞くことなのかもしれません。
相手の話を、心を落ち着かせて、集中して聞く。
ここでいう「共感」は、必ずしも相手の気持ちをすべて理解することではなく、
ただ、その人が話している場所に、一緒にいる。
そんな感覚でもいいのかなと思いました。
発表は、コミュニケーションの場所
今年はありがたいことに、学会発表やシンポジウムでお話しする機会をたくさんいただきました。
以前は、発表とは「自分が知っていることを、きちんと伝える場所」だと思っていました。
でも今は、少し違って見えています。
発表では、
「何を知りたいと思ってくださるのか。この時間で何を届けたいのか。」
を考える。
そして質疑応答では、
「目の前の先生は、本当は何を知りたいのか」
を、短い時間の中で精一杯聞く。
学会発表というのは、一方的に知識を渡す場所ではなく、そんなコミュニケーションの場所なのかもしれません。
時間配分。
声の大きさ。
話す速さ。
ジェスチャー。
そして、聞く力。
まだまだ磨きたいところはたくさんあります。
でも、こうして一つひとつ経験させていただけること自体が、本当にありがたいことだと思っています。
発表するたびに、自分の足りないところにも気づきます。
そして同時に、次はもう少し良くしたいと思える。
今回いただいた経験も、また次の診療、研究、そして発表につなげていきたいと思います。
貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。
上記のお写真は栃本天海堂の宮嶋様よりいただきました。ありがとうございました。
※薬剤に関する記載は2026年8月25日時点の添付文書をもとにしています。メラトベル(メラトニン)は「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善」が適応で、6歳未満では有効性・安全性が確立していません。コンサータ(メチルフェニデート塩酸塩)についても6歳未満では有効性・安全性が確立していません。(PMDA)