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大学の授業では教えてくれない!十分学んでこなかった漢方薬の処方をする際に気をつけることは?

漢方薬は、今や「一部の先生だけが使う特別な薬」ではなくなりました。

日本漢方生薬製剤協会の調査によると、2009年の時点で約8割(83.5%)の医師が漢方薬を処方していると報告されています。

(参考:https://www.yakuji.co.jp/entry9100.html

それだけ多くの医師が漢方薬を使うようになった一方で、

「医学部では漢方をきちんと習ってこなかった」
「なんとなく処方しているけれど、本当にこれでいいのか不安」

そんな声も、臨床現場で多く聞かれます。

この記事では、漢方薬を処方する医師が最低限おさえておきたい「たった一つの大原則」についてお話しします。

【漢方教育は必修になったけれど、「十分」とは言えない現状】

2001年、文部科学省が公表した「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に、初めて漢方医学(和漢薬)に関する項目が正式に盛り込まれました。
これにより、すべての医学部で何らかの形で漢方教育が行われるようになりました。

・医学教育モデル・コア・カリキュラムについて
https://core-curriculum.jp/

現在では、多くの大学で「和漢薬・漢方薬の特徴や使用の現状について概説できる」ことが到達目標として示されています。
しかし、

・授業時間数はどのくらい確保されているか
・どこまで臨床的な話に踏み込むか
・実習やケースディスカッションが行われているか

といった点は大学ごとに差があり

「講義を数コマ聞いただけ」
「試験対策で名前だけ暗記した」

というお声も少なくありません。

【卒後も「学びにくい」漢方——専門医が圧倒的に少ない】

医学部を卒業してからも、体系的に漢方を学べる研修やカリキュラムは、まだ限られているのが現状です。

その理由の一つは、とてもシンプルです。

先生がお勤めの病院には、漢方専門医は何名いらっしゃるでしょうか?
小児科専門医や内科専門医の数と比べると、圧倒的に少ないのではないでしょうか。

身近に相談できるロールモデルが少ない中で、
「他の先生の処方を真似しながら、手探りで使っている」という方も多いと思います。

それでも、日常診療において漢方薬を活用する医師は8割以上にのぼり、今や漢方薬は医療現場で欠かせない存在になっています。

(参考:https://www.yakuji.co.jp/entry9100.html

【それでも漢方が使われているということは、必要とされているということ】

卒前・卒後教育が十分とは言えない状況で、これだけ多くの医師が漢方薬を処方しているという事実は、二つのことを示しています。

1つ目は、漢方薬が実臨床で「必要とされている」ということ。

・西洋薬だけではコントロールが難しい症状
・更年期や不定愁訴、慢性の心身不調

こういったケースで、漢方薬に助けられた経験をお持ちの先生も多いのではないでしょうか。

2つ目は、一方で「なんとなく」で処方されているリスクもある、ということです。

・本やネットの「この症状にはこの漢方」をそのまま当てはめてしまう
・鑑別診断が十分でないまま、「とりあえず漢方を足す」という使い方になってしまう

だからこそ、ここで一度立ち止まって考えたい大事なポイントがあります。

【漢方処方で一番大切なのは「まず西洋医学的な診断」】

多くの医師が漢方薬を処方する上で、必ず意識していただきたいことは、実はとてもシンプルです。

それは、

「漢方薬を出す前に、西洋医学的な診断をしっかりとつけること」

です。

私たちの強みは、

・医学部で診察・診断のトレーニングを受けていること
・それぞれの専門医としてのスキルを持っていること

にあります。

この強みを手放さないことが、安全で効果的な漢方診療の土台になります。

【例:13歳のめまい・頭痛の女の子に、どう向き合うか】

例えば、13歳の女の子が「めまい」「頭痛」「なんとなくしんどい」と訴えて外来に来たとします。

このとき、いきなり

「自律神経の乱れだから〇〇湯」
「思春期だから〇〇散」

と、漢方だけで片付けてしまって良いでしょうか。

まず必要なのは、あくまで西洋医学的な鑑別診断です。

・起立性調節障害はないか
・鉄欠乏性貧血は隠れていないか
・頭痛の性状から器質的疾患を疑うべき所見はないか
・症状の経過や家族歴、既往歴に見落としがないか

場合によっては、採血や画像検査などの追加も必要になるでしょう。

そのうえで、

・器質的疾患は否定的である
・起立性調節障害や生活リズムの乱れがベースにある
・心理社会的要因が症状の増悪に関わっていそう

といった見立てが立って初めて、

「この子の体質・証に合う漢方薬は何か?」

を考えていきます。

この順番を決して逆にしないこと。
これが、漢方薬を安全に、そして最大限に生かすための大原則です。

【『子どもをみる医師のための子育て漢方』で大事にしたこと】

拙著『子どもをみる医師のための子育て漢方』(中外医学社)では、各テーマごとに

・見逃したくない鑑別疾患
・西洋医学的に確認しておきたいポイント

を必ずセットで記載しています。

「漢方に興味はあるけれど、小児科専門医ではない」
「研修医で、まずは安全に使えるところから学びたい」

という先生方にも、安心して手に取っていただけるように工夫したつもりです。

まず西洋医学的な診断・鑑別の視点を確認し、そのうえで漢方的な見立て(証)と処方の選択を学べる構成になっています。

小児科以外の先生方や、研修医・若手の先生方の診療の「セーフティネット」としてお役に立てれば幸いです。

【まとめ】診断は西洋医学、治療の選択肢として漢方を

漢方薬は、

・症状のコントロール
・QOLの改善
・家族全体のケア

などに大きな力を発揮してくれるツールです。

ただし、その前提として、

  1. 西洋医学的な診断・鑑別を丁寧に行うこと
  2. そのうえで、漢方を「プラスαの強み」として活かすこと

この2点を、どうか忘れないでいただきたいと思います。

日々の診療の中で「まずは診断、そのうえで漢方」という視点を意識しながら、
先生ご自身の「漢方スタイル」を育てていただけたら嬉しく思います。