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学校から帰ると、ぐったりして動けない。
家では些細なことで怒ったり、泣いたりする。
休日になると、なかなか起きられない。
注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)のある子どもを診ていると、ご家族から「この子はどうして、こんなに疲れやすいのでしょうか」と尋ねられることがあります。
外から見ると、授業を受けて、友達と過ごして、家に帰ってきただけに見えるかもしれません。
けれど、その子の中では、私たちには見えないところで、たくさんのエネルギーが使われていることがあります。
今回は、ADHDと「感覚への過敏な反応」との関係をまとめたLaneとReynoldsのレビュー論文をもとに、子どもの疲れやすさについて考えてみます。
ADHDは「集中できない」だけではありません
ADHDは、不注意、多動性、衝動性を中心とする神経発達症です。
ただし、同じADHDという診断であっても、子どもの困り方は一人ひとり異なります。
落ち着きにくい子もいれば、ぼんやりしているように見える子もいます。
音や光、触られることに敏感な子もいれば、あまり気にならない子もいます。
今回の論文では、ADHDを一つのまとまりとしてだけ見るのではなく、感覚刺激にどのように反応するかという視点も加える必要があると提案されています。
音や光を「人より強く受け取っている」ことがあります
教室には、たくさんの刺激があります。
先生の声、隣の子の話し声、椅子を引く音、廊下の足音、蛍光灯の明るさ、給食のにおい、服のタグ、友達との距離。
多くの人は、必要のない刺激をある程度背景に追いやり、目の前のことに注意を向けています。
ところが、感覚過反応、すなわちSensory Over-Responsivity(SOR)がある子どもでは、音や光、触覚、においなどを、より強く、あるいは長く感じることがあります。
論文では、このような子どもは感覚刺激に対して「闘争・逃走反応」に近い反応を示すことがあると説明されています。
たとえば、
- 周囲の話し声が、ずっと耳に入ってくる
- 服の縫い目やタグが気になり続ける
- 人に触れられると強く緊張する
- 給食のにおいだけで気分が悪くなる
- 教室のざわつきの中で、先生の声だけを拾うことが難しい
という状態です。
その子は、何もしていないように見える時間にも、刺激を受け取り、それに対応し続けているのかもしれません。
「集中する」ために、人より多くの力を使っている
ADHDの子どもは、注意を保つことだけでなく、必要な情報を選び、不要な情報を抑えることにもエネルギーを使っています。
さらに感覚過反応が重なると、
「先生の話を聞く」
という一つの行動の裏側で、
「隣の物音を無視する」
「蛍光灯のまぶしさを我慢する」
「服の不快感を抑える」
「人にぶつかられないよう警戒する」
といった複数の作業が同時に行われている可能性があります。
論文では、ADHDの子どもの一部に、感覚刺激への反応の違いがあり、それが覚醒状態やストレス反応、不安、日常生活への参加に影響する可能性が示されています。
ただし、この論文は「ADHDの疲労」を直接測定した研究ではありません。
そのため、感覚刺激への対応が疲れやすさにつながるという部分は、論文の知見から考えられる臨床的な推測です。
それでも、日中ずっと多くの刺激に対応し続けていれば、帰宅後に力が尽きることは、不自然ではないように思います。
学校では頑張れて、家で崩れる子ども
学校では落ち着いて過ごしているのに、帰宅すると急に不機嫌になる。
宿題に取りかかれない。
きょうだいに怒る。
些細なことで泣く。
こうした様子を見ると、ご家族は「学校ではできているのに、どうして家ではできないのだろう」と感じるかもしれません。
けれど、家で崩れることは、家を安心できる場所だと感じているから起こることもあります。
学校で一日中、自分を抑え、周囲に合わせ、刺激を受け止めてきた子どもが、家に帰って緊張をほどいているのかもしれません。
「家ではわがまま」なのではなく、
「家に帰るまで、力を使い切っていた」
という見方に変えると、子どもの様子が少し違って見えることがあります。
感覚の過敏さと不安は、重なり合うことがあります
今回の論文では、ADHDに感覚過反応がある子どもでは、不安が強い傾向が報告されています。
刺激がいつ起こるか分からない。
避けられない。
自分ではコントロールできない。
そのような経験が重なると、子どもは次の刺激に備えて、常に警戒するようになる可能性があります。
論文では、感覚過反応が不安と関連し、刺激を受けたあとの覚醒状態が元に戻りにくくなる可能性も論じられています。
ずっと身構えている状態は、身体にも心にも負担になります。
何か特別な出来事がなくても疲れてしまう背景には、こうした「見えない緊張」があるのかもしれません。
「疲れやすさ」をADHDだけで説明しないことも大切です
一方で、ADHDの子どもの疲れやすさを、すべて感覚過敏で説明することはできません。
睡眠不足、睡眠の質の低下、起立性調節障害、貧血、甲状腺疾患、感染症、薬剤の影響、不安や抑うつ、学校での対人関係など、さまざまな要因が関係します。
特に、
- 朝起きられない
- 立ちくらみや頭痛がある
- 動悸や息切れがある
- 食欲や体重が変化した
- 以前より明らかに元気がない
- 学校生活が急に難しくなった
という場合には、身体面を含めた医学的な評価が必要です。
疲れている子どもに、最初に必要なこと
疲れている子どもを見ると、
「もう少し頑張って」
「早く宿題をしよう」
「みんなも同じように学校へ行っているよ」
と言いたくなることがあります。
私も、目に見える行動だけを見ていたら、「まだできるのでは」と思ってしまうことがあります。
けれど、子どもが一日を過ごすために、どれほど多くの刺激を受け取り、どれほど自分を調整していたのかは、外からは分かりません。
帰宅後に動けなくなることも、怒ってしまうことも、もしかすると、その子が一日を精一杯過ごしたあとに現れる姿なのかもしれません。
「どうしてできないのだろう」ではなく、
「今日は、何に力を使ってきたのだろう」
そう見つめ直すだけで、子どもとの間に流れる時間が、少し柔らかくなることがあるような気がします。
参考文献
Lane SJ, Reynolds S. Sensory Over-Responsivity as an Added Dimension in ADHD. Frontiers in Integrative Neuroscience. 2019;13:40. doi:10.3389/fnint.2019.00040. fileciteturn0file0