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漢方をもっと身近に

今、病気と戦っている人はもちろん、それらを治療する医療者にもなんとなく日常が億劫に感じる人にも様々な人に広く正しく「漢方」をもっと身近なものに

漢方薬は家族と医療者の味方

漢方薬の原料は自然界に存在する植物・鉱物です。
患者さんの体と心に働きかけ、自然由来の力で治癒力を高めることができます。

漢方薬には、大切な3つの「みかた(味方・見方・診方)」があります。

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様々な人に届けたい
「漢方について」

医療者として、「治す」だけでなく
幅広い認知につなげるため
日々多方面にて活動しております。


夜泣き(0歳 女の子)

処方した漢方

甘麦大棗湯、柴胡加竜骨牡蛎湯

どうして漢方を処方したのか?

生後5カ月頃より夜泣きが増え、9カ月には連日1時間半~2時間毎に起きて泣き、1晩で4〜5回起きることも珍しくありませんでした。その都度授乳で寝かしつけをしていましたが、回数が多く、初めての子育てでお母さんも疲弊しており、漢方治療を希望されました。

治療経過は?

甘麦大棗湯を寝る前に内服してもらい、生活指導(朝7時くらいに起きること・日中お散歩に行くこと)を行いました。2回目の診察時にも、夜泣きは依然として継続していたため、寝る前に飲む漢方薬に柴胡加竜骨牡蛎湯を加えました。2つのお薬を飲み始めて1週間後、1〜2時間毎だった夜泣きが3時間間隔になりました。2カ月後には食欲も増加し、日中の断乳にも成功。3カ月後には夜泣きの回数が1日あたり1〜2回に減りました。その後、成長と共に夜泣きがなくなったため、治療は終了となりました。

医療関係者向けの詳しい解説

甘麦大棗湯は古くから、夜泣き、神経の高ぶりによる不眠、ひきつけに使用されています。実際の臨床では、夜泣き、不眠症、不安感など心のサポート、癇癪、パニック発作の予防などに用います。
甘くて飲みやすいため、一番初めに出すことが多い漢方薬の1つです。

これまでの方向には
1あくびの抑制[1]
2夜泣き・夜驚症に有効[2]
3憤怒けいれん(チアノーゼ型)に有効[3][4]
4チックに有効[4][5]
5月経前症候群。特に過食を伴う月経前不快気分障害に有効[6]
6自閉症の社会性やコミュニケーションの一次障害の発達が改善[7]
などがあります。

小麦・大棗・甘草と全て食品から成り立つため、0歳のお子さんでも安心して飲んでいただけます。

※参考文献

[1]木村博. ラットにおける甘麦大棗湯のドパミン作動薬誘発あくび行動に対する抑制作用. 日本東洋医学雑誌, 1997, 48.1: 53-7.
[2]川島希,山口英明. 夜啼・驚啼に対する甘麦大棗湯の起源: 医史学的考察. 日本小児東洋医学会誌, 2017, 30: 43-50.
[3]Murata, R, Matsuoka, O, Hattori, H et al. Efficacy of Kan-baku-taiso-to (TJ-72) on Breath-Holding Spells in Childern. The American Journal of Chinese Medicine, 1988, 16: 155-8.
[4]田島大輔,辻功介.甘麦大棗湯が奏功した憤怒けいれん・チックの5例.脳と発達.2017; 49:S411.
[5]黒川晃夫.チック,多動に対し甘麦大棗湯が奏功した1例.日本小児東洋医学学会雑誌.2017; 30:62-5.
[6]Shiota A,Shime C,Nakai K, et al. “Kambakutaisoto” and Emotional Instability Associated With Premenstrual Syndrome. Frontiers in nutrition, 2021, 8.
[7]川嶋浩一郎.小児科診療における甘麦大棗湯の有用性.外来小児科.2012; 15:330-6

自閉スペクトラム症(3歳 男の子)

処方した漢方

大柴胡去大黄湯 甘麦大棗湯

どうして漢方を処方したのか?

3歳で入園しましたが、集団生活におけるトラブルが多く困っていました。
癇癪、イライラすると友人を叩く、座ってじっとできず机の上に立つといった行動を治したいと希望され、漢方外来に相談がありました。

治療経過は?

大柴胡湯去大黄と甘麦大棗湯を、登園前と寝る前に飲んでもらうようにしました。最初は半分ほどしか飲めませんでしたが、お母さんと一緒に頑張って全量飲めるようになりました。次第に集団生活にも慣れ、4か月後の運動会では友人と共に全ての競技に出ることができました。漢方薬を飲んでいるとイライラや癇癪が減り調子が良いため、成長を見守りながら治療を継続しています。

医療関係者向けの詳しい解説

癇癪、イライラ、不安感などに漢方薬が有効です。大柴胡去大黄湯や甘麦大棗湯の他に、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯などを体質に合わせて処方します。重症度に応じて、2剤を併用するケースや、煎じ薬を処方することもあります。
漢方薬を飲むタイミングも大切です。学校に行く前・帰宅後など、症状が悪化しやすいタイミングや日常生活に合わせます。

睡眠障害(3歳 男の子)

処方した漢方

黄連解毒湯

どうして漢方を処方したのか?

小さい頃から夜泣きが酷く、寝つきに1時間ほどかかり、夜間も起きてしまうと遊んでしまい、2時間ほど眠れない生活が続いていました。3歳で自閉スペクトラム症と診断されました。

治療経過は?

黄連解毒湯を寝る前に飲んでもらうようにしました。飲んで1週間ほどで寝つきが良くなりました。そのうち、睡眠中に目が覚めてもすぐに眠りにつくようになり、ご家族の負担も減りました。
採血検査にて副作用がないことを確認しながら、服薬を1年ほど続けました。その後、様子を見ながらまずは土日は飲まないようにするなど、少しずつ服薬量を減らしながら治療を終了としました。

医療関係者向けの詳しい解説

睡眠の問題にも漢方薬は有効です。中途覚醒を繰り返すと、家族も十分な睡眠がとれずに疲労を蓄積していることがあります。漢方薬は翌日に眠気が続くこともありません。
黄連解毒湯は苦味があり飲みにくい薬の1つです。処方の際に服薬指導をしっかりと行いました。まずは半量でも飲めたら十分です。ミロ®️やヨーグルトなどに混ぜて飲んでも問題ありません。

起立性調節障害(12歳 女の子)

処方した漢方

半夏白朮天麻湯

どうして漢方を処方したのか?

3ヶ月前にめまい、立ちくらみ、朝起きられないといった症状がみられたため、小児科を受診しました。
起立性調節障害の診断を受けていたため、塩酸ミドドリン®︎を内服していましたものの、症状の改善が思わしくなく、特に午前中の調子が悪いため学校も休みがちだと相談がありました。

治療経過は?

半夏白朮天麻湯を飲み始め、1か月ほどでめまいや立ちくらみが減ってきました。
合わせて生活リズムを整えるよう指導を行い、朝7時頃までに朝日を浴び、夜は23時に布団に入ってもらうようにしました。
規則正しい生活と漢方薬の内服を続けたところ、徐々に午前中の調子もよくなり、学校に行けるようになりました。8ヶ月ほどで治療を終了しました。

医療関係者向けの詳しい解説

ODの大症状(特にめまい、立ちくらみ)を訴える循環虚弱型の第1選択です。循環虚弱型に半夏白朮天麻湯を使用した19例のうち、著効と有効が79%と高い有効率でした[8]。特に胃腸虚弱、冷え、頭痛があり、腹診にて心窩部を軽く叩くときにポチャポチャと音がする(振水音)場合に有効です。

※参考文献

[8]津留徳.起立性調節障害.小児科診療.2004; 9:1477-80.

夜尿症(10歳 女の子)

処方した漢方

柴胡桂枝湯

どうして漢方を処方したのか?

夜尿症がなかなか改善せず、困っていました。お母さんが漢方薬の本を借りてきた時に夜尿症について書かれており、ご本人が飲んでみたいと希望されました。

治療経過は?

まずは尿検査や画像検査を行い、大きな病気がないことを確認しました。レントゲン検査にて便秘があることがわかりました。便秘は夜尿症の原因になっていることも多いため、便秘薬と柴胡桂枝湯を一緒に飲んでもらうことにしました。
内服後、夜尿は週1回ほどになり、1ヶ月ほど経過した時点でほとんど見られなくなりました。また排便もしっかりされるようになりました。
3ヶ月ほど治療を継続し、治療を終了しました。

医療関係者向けの詳しい解説

柴胡桂枝湯は、風邪を引きやすく虚弱体質で、神経過敏を指標とします。夜尿症以外にも、頭痛や腹痛にも使用します。腹診(漢方独自のお腹の診察方法)では、胸脇苦満と腹直筋攣急を目安にします。
柴胡桂枝湯には錠剤タイプもあるため、粉薬が苦手なお子さんにも使用しやすい処方です。

※参考文献

[8]津留徳.起立性調節障害.小児科診療.2004; 9:1477-80.

偏頭痛(12歳 女の子)

処方した漢方

五苓散
六君子湯

どうして漢方を処方したのか?

天気が悪くなると頭痛が起こり、体の調子が悪い日も続いていました。鎮痛剤を飲む量を減らしたいと相談があり、漢方薬の内服を始めることにしました。

治療経過は?

気圧アプリを使ってもらい、「気圧が下がる前」に五苓散を飲んでもらうようにしました。尿量が増え、鎮痛剤を使う回数が減りました。しかし、梅雨時期になると体調不良が続いたため、追加で六君子湯を毎日飲むことにしました。
六君子湯を開始したところ元気になり、風邪も引きにくくなって、体力がついたと喜ばれました。半年ほどで頭痛もほとんどなくなりました。

医療関係者向けの詳しい解説

五苓散は、雨の日の前に発症する頭痛に対して有効であることが分かっています。雨天でない日に発症する頭痛に比べて有効率はオッズ比16.3という結果であり、この条件下で五苓散を使用すると90%で有効と報告されています[9]。そのため、本事例のように気圧アプリを併用することをおすすめしております。

※参考文献

[9]灰本 元,高田 実,林 吉夫,ほか : 慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察―五苓散有効例と無効例の症例対照研究―.フィト.1999;1 : 8-15.

過敏性腸症候群(13歳 男の子)

処方した漢方

桂枝加芍薬湯

どうして漢方を処方したのか?

お腹が痛くなることや、緊張時に下痢になることが多く、学校でもトイレに行きたくなることがよくありました。テスト前などは特に緊張が強くなり、症状も激しくなることから、漢方薬の相談がありました。

治療経過は?

お腹の緊張が強かったので、まずは桂枝加芍薬湯を飲んでもらいました。飲み始めてから2週間ほどで腹痛が起こる頻度が減りました。3ヶ月ほど続けたところ、下痢も起こりにくくなりました。調子が良いため毎日飲むことはやめ、お腹が痛くなる時や下痢が起こりそうなタイミングで飲んでもらうことにしました。

医療関係者向けの詳しい解説

桂枝加芍薬湯は過敏性腸症候群や、機能性腹痛症、便秘症に使用します。痛みが強く、冷えによる下痢にもよい適応があります。桂皮や生姜など体を温めるものが多く含まれ、緊張や痛みをとる芍薬の量が多いことが特徴です。

風邪をひきやすい(1歳 女の子)

処方した漢方

黄耆建中湯

どうして漢方を処方したのか?

保育園に入園してから、毎月のように風邪を引くようになりました。看病のため、お母さんも仕事を休むことが増えて困っていました。体質の改善を希望され、漢方薬の内服を始めることにしました。

治療経過は?

軽症のアトピー性皮膚炎もあったため、黄耆建中湯を処方しました。
飲み始めると鼻水や咳が長引かなくなり、熱も出しにくくなりました。また皮膚の状態も綺麗になったと喜ばれました。3ヶ月ほど内服を続け、治療終了としました。

医療関係者向けの詳しい解説

小建中湯+黄耆=黄耆建中湯
腹部を温め消化機能を高める小建中湯に、体表の気を強くして免疫を高め、汗を止め、皮膚を丈夫にする黄耆が合わさったものーそれが黄耆建中湯です。アトピー性皮膚炎、多汗、風邪を繰り返す場合の第1選択薬となります。

母子同服例 [育児不安](33歳 女性)

処方した漢方

抑肝散加陳皮半夏

どうして漢方を処方したのか?

1歳の子どもの夜泣き(1晩で3回ほど)で漢方薬の相談がありました。
お母さんも夜泣きのため眠れず、睡眠不足からイライラすることが増えていたそうです。漢方薬を親子で一緒に飲む方法を提案し、母子ともに抑肝散加陳皮半夏の内服を開始しました。

治療経過は?

抑肝散加陳皮半夏を飲み始めたところ、お母さんのイライラは減り、眠りの質も向上しました。睡眠時間は依然短くはありますが、熟睡感が増しました。次第にお子さんの夜泣きもなくなり、親子で穏やかに過ごせる時間が増えたと喜ばれておりました。

医療関係者向けの詳しい解説

「母子同服(ぼしどうふく)」とは文字通り、母と子で一緒に漢方薬を服用することを指します。漢方では古くからある服薬方法です。
中国・明時代の『保嬰金鏡録』及び、『保嬰撮要(ほえいさつよう)』には、神経過敏な子どもの治療として抑肝散(よくかんさん)を与える際、母親も同時に同じ薬を飲むことを勧める記載があります[10]。現在のように、エキス剤がなかった時代は母乳からの投与で子どもに与える方法もとっていたようです。
子どもに病気があることで親にも精神的な負荷がかかることもあれば、反対に親が精神的な安定を欠くことで子どもの神経過敏がもたらされるということもあります。
つまり、親子が心身ともに健やかであることが大切なのです。そこで、治療対象を子どもだけではなく、母親にも広げる「母子同服」の考え方が生まれました。その結果、母と子が相互に良い影響を与え合い、相乗効果で母親と子どもの両者が回復していきます。

※参考文献

[10]枡渕彰,小曽戸洋,木村容子.抑肝散の原典について.日本東洋医学学会誌.2014;65No3:180-184

自己紹介

鈴村水鳥資格:漢方専門医、小児科専門医、アレルギー専門医

私が東洋医学の医師を志すようになったきっかけは、自ら病に苦しんだ経験でした。医学部の学生であった私は、2年生の途中に尋常性天疱瘡という難病指定されている病気を発症。西洋医学や鍼灸、漢方治療を併用して寛解に至りました。当時の私がこの病を受け入れ、治療に対して希望を持つことができたのは、「病気はバランスの乱れ」という東洋医学の考えを知ったからに他なりません。そして、この考えは今でも私の根底にあります。
自身の経験から、東洋医学の力で個々人が持つ本来の力を引き出したいという思いを強めました。その後2021年には名鉄病院にて小児漢方外来(母と子のための漢方外来)を担当。2022年には、かけはし糖尿病・甲状腺クリニックにて漢方外来を開設しました。日々、漢方薬が持つ力を実感しながら、幸せな親子が増えることを祈って診療を行っています。